こんにちは、歌人の鈴掛真です。5・7・5・7・7の短歌の作家です。
自由民主党衆議院議員の杉田水脈(みお)氏(51歳)による「LGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダー)は子供を作らない、つまり『生産性』がないのです」 という持論が物議を醸しています。
さて、杉田氏の発言はどこが問題なのか。
今回は鈴掛真がオープンリー・ゲイとして、このニュースの読み解き方をわかりやすく解説していきます。
というわけで、連載【ゲイだけど質問ある?】いってみよー!!
杉田水脈氏は、これまでにも過激な発言を繰り返している炎上の常連なのだけど、今回は『新潮45』2018年8月号のコラムで「(同性婚への支援で)LGBTのカップルのために税金を使うことに賛同が得られるものでしょうか。彼ら彼女らは子供を作らない、つまり『生産性』がないのです」と主張しました。
この発言に対して、ネット上では
「子供を作ることだけが生産じゃない!」
「LGBTだって納税してるんだから充分生産的だ!」
という旨の反論が目立ちます。
うーん。みんな、ちょっと待って!
人間を生産性で計ること自体、おかしくね?
セクシュアリティに関係なく、例え子供がつくれなくても、病気で仕事ができなくても、『すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により政治的、経済的又は社会的関係において差別されない。』と日本国憲法で定められています。
「生産性」なんていう、定義のあいまいな物差しで人間に優劣を付けること自体が間違っているんです。
つまり杉田氏は、「生産性」という、あたかも道理に合っているかのような持論を武器に、LGBT批難というパフォーマンスを行っているだけ。
「LGBTだって生産的だ!」と反論すれば、彼女の挑発に乗って、僕たちも彼女と同じように人間を生産性で計ることになってしまいます。
とはいえ、今回は批難の対象がLGBTだったけれど、人間を生産性で計る彼女の価値観が蔓延してしまえば、例えば「高齢者は生産性がない!」「寝たきりの人には生産性がない!」と、更にひどい発想が国民の中に生まれかねません。現職の国会議員が、そんな偏った価値観を国民に植え付けていることが大問題なんです。
そもそも杉田水脈氏がどんな人かを知るために、彼女の過去の発言を見てみましょう。
たったこれだけでも、ちょっと何言ってるか分からないって思う人は多いはず。
まず、杉田氏が『差別』という言葉を間違って覚えて使っていることを指摘したいと思います。
【差別】とは、『偏見や先入観などをもとに、特定の人々に対して不利益・不平等な扱いをすること』(大辞林 第三版より)を意味します。
まだまだ女性がなりたくてもなれない仕事があったり、給料の待遇が男性より悪かったり、女性差別はいたるところに存在していることは誰もが理解していることなのに、「私は、女性差別というのは存在していないと思うんです。キリッ」と言い切っているのは、ある意味凄い。(イヤミですよ)
なぜ杉田氏が「女性差別というのは存在していない」と考えるかというと、彼女の女性としてのプライドの高さにあると思います。
杉田水脈氏は、大手企業の積水ハウス木造から公務員、国会議員へと昇り詰め、その間に結婚と出産を経験し、女性として非の打ち所のない輝かしい栄光を掴んできました。男性優位な社会の中でも出世するスキルに長けていた彼女は、これまで女性として不利益・不平等な扱いを受けてこなかった、“たまたま女性差別を感じることがなかった”のでしょう。
つまり「“私という社会の中では”女性差別というのは存在していない」と言いたいだけのことなんです。
もちろん、彼女が現在の地位を手にするまでには、相当な努力があったことでしょう。
女性差別撤廃条約に反対しているのは、これまで男性優位な社会の中でのし上がってきた自分の努力を否定することになるからではないでしょうか。
伊藤詩織さんへの批判にも「私だったらそんなヘマはしない」という自尊心が見て取れます。
ま、杉田氏の自尊心なんて知ったこっちゃないんだけど。
極めつけは、こんな発言も。
どう見ても性差別、同性愛差別的な発言を繰り返しながらも、彼女は度々「差別するつもりはない」などと補足しているので、「あ~そもそも会話が成り立たない人なんだ」とは思っていたけど、上記を読めば、あの歴史的独裁者を想像して「あ、ヤバい人だ…」と気付く人は多いはず。
LGBTへの支援反対も、この『普通であること』を重んじる彼女の持論から生まれた差別的思考に他なりません。この『常識』『普通であること』『秩序』を重んじたことで起こった悲劇が、ご存知ナチスの大虐殺です。
ヒトラーは、「アーリア人種こそが世界を支配するに値する人種である」(アーリア人種こそが普通である)というナチズムを掲げ、人種差別、同性愛差別を正当化して、あらゆる人々の人権を剥奪しました。
これは決して大げさな話ではなく、国の方針を担う国会議員が『常識』『普通であること』『秩序』などという偽りの正義で国民を差別していることは、とても恐ろしいことなんです。
セクシュアリティや政党に関係なく、杉田水脈氏の国会議員としての人間性を疑問視する必要があると思います。
冒頭の、LGBTに税金を使うことは問題だという発言も、説得力に欠ける杉田氏の屁理屈であることは言うまでもないけれど、同性婚や同性パートナーシップ制度については、彼女のような反対派が根強いのも事実です。
以前執筆した【同性婚って、ぶっちゃけどうよ!】でも論じたように、同性婚は、LGBTに特権を与えるのではなく、異性愛者にしか与えられていない結婚という権利を、同性愛者を含めたみんなに平等に与えるということ。
あえて杉田氏の言葉を借りるならば、『みんなが平等に結婚できることを普通にする』ということなんです。
国会議員の過激な発言やパフォーマンスに惑わされず、社会にとって何が大切かを見定めてみよう!
僕は「どの政党はダメだ!」とか「どの政党を支持しよう!」とか、みんなを政治的に指南するつもりはありません。
ただ僕が心配なのは、このニュースを見た10代・20代のLGBTのみんなが「僕はどうせ生産性のない人間なんだ…」と自信をなくしてしまったんじゃないか、ということ。
こうした無神経な大人の発言は、自分が同性愛者だということに悩んでいる少年少女たちの心に、深い傷を残します。それはとても罪深いことです。
とはいえ、この記事を読んだことで、杉田水脈氏の発言は耳を貸すまでもない言いがかりだということがわかってもらえたと思います。
LGBTだって、社会に貢献して活躍している人がいます。そして、こうした差別や偏見を無くそうと、今まさに立ち向かってくれている大人もたくさんいるんです。
10年前なら、日本で同性パートナーシップ制度なんて、考えられなかったこと。
それを思えば、日本は確実に前進しています。今後の前進のために、こうした衝突は避けて通れないもの。
心無い言葉に惑わされて自分を否定したりしないで、LGBTだということに自信を持って前を向いて行こうね!
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