こんにちは、歌人の鈴掛真です。5・7・5・7・7の短歌の作家です。
この1年、「アウティング」という言葉が国内の各所でささやかれていました。
ネットニュースなんかで見かけた人も多いんじゃないかな?
アウティングとは、ゲイやレズビアンなどのセクシュアリティを本人の了承なしに暴露すること。一橋大学の男子学生が、片思いの相手だった男子学生にゲイだってことをバラされて自殺したニュースは、去年の夏、大きな話題になりました。
日本も同性愛に随分と寛容になってきたとはいえ、まだまだゲイやレズビアンを嫌悪する人が多いのも事実。
こうしている今も、アウティングの恐怖に怯えている同性愛者が、みんなの周りにもいるかもしれないんです。
僕はオープンリー・ゲイとして、いつ何時でも考えていることがあります。
「同性愛もれっきとした愛の形だってことを、どうしたら多くの人にわかってもらえるんだろう」って。
そこで今日はみなさんに、僕自身がゲイとして体験した純愛のエピソードをご紹介します!というわけで連載【ゲイだけど質問ある?】、今回はせつないテイストでお届けしましょう。
あれは約10年前、僕がまだ美大に通っていた頃。
同じ学科の、同じコースに通っていた男の子がいました。
彼はいくつものコンテストで入賞経験がある優等生で、学科の期待の星。背が高くて、飾らない素直な性格は、女の子からとっても人気がありました。
僕は劣等生だったのに、なんだか彼は優しく接してくれて、同じ講義をたくさん受けていたこともあってか、自然と二人で同じ時間を過ごすようになりました。
講義の間も、ランチの時間も、休憩のタバコも、帰りのスクールバスも。僕は一日中、彼の隣にいました。
毎日顔を合わせるうちに、大学の同級生としての友情と、才能への尊敬の思いが重なって、それがやがて恋心に変わったのは、今思えば必然だったような気がします。
みんなにも、叶わぬ片思いの経験が、きっとあるんじゃないかな。
憧れの先輩を好きになったり、友達の恋人を好きになってしまったり。学校の先生や、既婚者を好きになってしまった人もいるかもしれないね。
僕が彼に抱いた想いも、同じでした。
彼には、高校の頃から付き合っている遠距離恋愛中の彼女がいたし、確かめるまでもなく、彼は同性を恋愛対象にするような男じゃありませんでした。
同性の僕が、彼の恋人になれることなんて、あるわけがない。
「どうして好きになってしまったんだろう…」
彼に会える毎日はとても楽しかったけど、それ以上に、苦しくもありました。
当時の僕は、まだ限られた友人にしかゲイであることを打ち明けていなくて、大学の中でカミングアウトする勇気はまだありませんでした。
もしも片思いを知られてしまったら、きっと彼に「気持ち悪い」って思われる。せっかく友達になれたのに、そんな辛いことって無い。
もしもアウティングされて、他の学生にも知れ渡ったら、もう大学にいられなくなるかもしれない。
僕は、片思いをひた隠しにして、来る日も来る日も、ただ友達のふりをしていました。
とある夏の日に、一人暮らしの彼のマンションへ、僕が一人で泊まりに行ったことがありました。
たとえ友達の関係でも、彼の部屋で、朝まで二人きりで一緒にいられるなんて。僕にとって、夢のような嬉しい出来事でした。
夜。
彼はルームウェアを貸してくれて、得意料理のパスタを作ってくれました。
映画を観て、お酒を飲んで、二人でたくさん話をしました。
けれど、どんなことを話したのかは、正直なところ、詳しく思い出せません。
10年も前のことだし、当時の僕は、彼とどんな話をするより、どんなことをして一緒に過ごすより、ただ彼の隣にいられるだけで幸せを感じられたからです。
「俺、床で寝るから」と、彼はいつも使っているベッドを僕に貸してくれました。
けれど、僕はなんだか緊張してしまって、ちっとも寝付けません。
気づけば、窓の外がだんだん明るくなってきました。
ベッドの上から床を見ると、彼は気持ちよさそうにぐっすりと眠っていました。
タンクトップに、トランクス姿。
細くて長い、少し汗ばんだ彼の手足を、朝日がかすかに照らしていました。
今この瞬間、彼は僕だけのものでした。
誰にも見られず、眠っている彼自身にも気づかれず、体に触れることができるのは、世界中で僕一人だけ。
僕は、彼の体に差し伸べた手を、ゆっくりと引き戻して、それからやっと眠りにつきました。
もしもあのとき、彼の体に触れてしまっていたら、僕らは友達でいられなくなっていたような気がします。
なにより、友達として家に招いてくれた、彼自身を裏切ることになると思ったのです。
恋人になれなくても、気持ちを伝えられなくても、ただ隣にいられるだけでいい。
それが僕にとって、彼への純愛の形だったのです。
実は、10年経った今でも、僕はまだ当時の想いを伝えていません。
彼とのエピソードを、記事としてこんなに具体的に書いたのは初めて…。
もしも彼がこの記事を読んだら「あ…俺のことだ」って気づいてしまうかも!!
ま、いっか。もう時効だよね。
いかがでしたか?
ゲイが同性を好きになる感情にも、ちゃんと純愛が込められているってことがわかってもらえたかな?
好きなのに、恋人になれない。気持ちすら伝えられない。
同性愛者にとって、片思いを打ち明けることは、同時に自分のセクシュアリティをカミングアウトすることでもあります。
一橋大学の学生が苦しんだように、ときには自分の命と引き換えになるくらい重大な決断なんです。
みんなの中にも、今まさに叶わぬ片思いを抱いている人がいるかもしれないね。
片思いは、確かに辛いし、苦しい。
でも、いちばんに大切なのは、心から人を好きになれたことなんだってことを、忘れないでいてほしいんだ。
恋人同士になることだけが、恋愛じゃない!
みんなも、自分なりの純愛の形を見つけてみようね。
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