こんにちは、歌人の鈴掛真です。5・7・5・7・7の短歌の作家です。
僕は愛知県名古屋市に隣接する春日井市というところで生まれ育ちました。近年では観葉植物としてサボテンや多肉植物が人気だけど、春日井は熱帯地域でもなんでもないのにサボテンの国内シェアがなんと8割! みんなのお家に飾ってあるサボテンも春日井産かもね。
そんな春日井市からの依頼を受け、短歌の先生として授業を行うことに!
地元の学校の教壇に立てるなんて、とっても光栄なこと。僕は二つ返事でオファーを快諾しました。
けれど、心配ごとがひとつ。
僕、ゲイなんだけど大丈夫なのかな…。
というわけで、連載【ゲイだけど質問ある?】今回は『中学校の教壇に立ってゲイをカミングアウトした結果』をお届けします!
僕は、仕事でもプライベートでも同性愛者であることを隠していないオープンリー・ゲイ。春日井市も、それを知った上でオファーしてくれました。
授業の内容は、和歌の成り立ちや、創作のコツなど、おおむね国語の授業の派生という位置づけではあったのだけど、僕にはぎりぎりまで悩んでいたことが…。それは、授業の中で同性愛の話題を出すか否か。
どんな内容にするかはほとんど任せていただいていたから、僕のさじ加減でどうにでもなるとは言え、学業から逸れる話題はいかがなものか。
けれど学校側は「せっかくお招きするなら、教師からは聞けないような人生観などもお話しいただきたい」と仰っていて、同性愛の話題はまさにもってこいだとも思ったり。
市と学校に事前に確認を取っておこうか、後から苦言を聞かされるのも気分が悪いし。いや待てよ、そもそも確認を取るようなやましいことでもないのか。
うーむ。悩ましい。
よっしゃ、その場のノリで決めたろ。
当日まで結論が出ないまま、結局はそれくらいの軽い気持ちで臨むことにしました。
僕にとって人生初の学校での授業、その舞台は春日井市立藤山台中学校。
「少しやんちゃな学年です」と事前に聞かされていた2年生のクラスで授業を行いました。
ちゃんとみんな真面目に聞いてくれるかな…。ドキドキ
午前中に学校に到着して、早速教室へ。
中から賑やかな声が聞こえていたり、廊下を走り回ってる男子がいたり、確かにやんちゃな感じ!
チャイムが鳴って生徒が着席すると、僕は教壇に立ちました。
「はじめまして、鈴掛真です。短歌の先生が来るって聞いて、どんなおじさんが来るのかな?と思ったかもしれないね。年齢は、みんなの倍くらいかな。みんなと同じ春日井市で生まれ育って、今は東京で仕事をしています。今日は、言葉で表現することの面白さを伝えられたらと思います」
うん、掴みはまずまず。
これまでの活動をまとめたスライドをプロジェクターで映して、伊勢丹のショーウィンドウに短歌が採用された話などを交えながら自己紹介しました。
よっしゃ、やっぱり話してみよう。
「ところで、みんなは『LGBT』という言葉を聞いたことがあるかな? これはレズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスセクシャルの略で、近年、男の子同士や女の子同士でも恋愛したって良いんじゃないか、っていう考え方が少しずつ日本の中で広まりつつあります。」
そこまで話すと、やんちゃそうな男子が一人『なに言ってんだこの人?』と冷やかすようにニヤッと笑いました。
でも、僕は毅然とした態度で続けます。
「僕もそんなゲイの一人として、同性愛者の存在を社会の中でもっと身近に感じてもらえるような仕事にも取り組んでいます。さて、それでは早速、短歌について学んでいきましょう」
すると、さっきまでニヤついていた男子も真面目な顔になって、クラス全員が大人しく授業を受けていました。
中学校生徒へのカミングアウト、それは意外とあっさり終了。
あれ、なんか、もっと波乱を呼ぶと思ってたんだけどな。もっと、こう、「えーっ!」とか「先生、どんな人がタイプなの!?」とか。
「なにか質問ある?」と聞いてみると、手を挙げた男子が一人いたのだけど、まさかの「好きな食べ物はなんですか?」と聞かれて、拍子抜け…。
「え? 急にどうした!?」って盛り上がったから良かったけどね。
ゲイの先生は、いい意味で、肯定も否定もなく自然と受け入れてもらえた印象を感じました。
授業の後は、校長室に案内されて、給食を頂きながら先生たちと反省会。
春日井市からも、先生たちからも、LGBTを話題に取り上げたことに関する苦言は全くありませんでした。
むしろ国語の先生からは「私の授業ではいつも退屈そうにしている生徒が、鈴掛さんの話は真面目に聞いていて嫉妬しちゃったわ!」と冗談交じりに褒めていただけたほど。
今回のチャレンジを通じて、少なくとも学校はLGBTについて思うよりもずっと寛容だと感じました。いまだに地毛の茶髪を黒に染めようとする閉鎖的な学校もある一方で、近年LGBTが理解されてきたことに準じて教育現場も少しずつ変わっているのだ、と。
けれど、子どもたちはどう感じたんだろう。
授業の本題ではなかったこともあって、具体的な感想は聞けていませんが、きっと何かしら心の中に残すことはできたはず。
僕は中学生の頃、既にゲイであることを自覚していたのだけど、誰に相談するわけもなく、むしろ絶対誰にもバレたくない一心で毎日を過ごしていました。気持ち悪いと思われたくなかったから。みんなと違う自分を認めたくなかったから。
でも、もしも当時、今の僕のようなオープンリー・ゲイの大人が近くにいたのならどうなっていたんだろう、と考えます。
中学1年生で同級生に片想いを抱いて、気持ちを伝えたくても伝えられない、もどかしい日々を過ごしました。
告白したり、付き合ったり、喧嘩したり、別れたり…男女なら当たり前にできる恋愛が同性愛者にはできないことに苦しんで、「どうしてゲイに生まれちゃったんだろう」と悩んだこともあります。
もしも、同性愛者はどこにいてもおかしくないということを体現してくれる大人がいれば、子どもたちの中に偏見が生まれず、ゲイやレズビアンの子どもたちにとっては自分を肯定できる機会になると思うのです。
今回訪れた藤山台中学校2年生の生徒たちにとって、僕の授業がそんなきっかけになってくれていたらいいなと願うばかりです。
春日井市内の中学校へは今後も短歌の授業を行いに伺う予定です。
先生、次もカミングアウトしちゃおっかな!
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