air木村直人さんが、気になる若手美容師の今とこれからを探る対談企画。5回目のお相手は、boat by ROVERの稲垣佳恵さん。日本美容専門学校を卒業後、昨年ROVERに就職した美容師一年目。
対談の前から、Twitterでのやりとりをされていたお2人ですが、実際会ってみての感想は? 「今っぽいですね」と木村さんが話す、美容師一年目ってどういうことなのでしょうか。
木村直人(以下、木):今日はよろしくお願いします。Twitterでちょいちょいコメント投げて下さいますよね。美容師としてのジャンルが違うとは思うのですが、なんで見て下さっているんですか?
稲垣佳恵(以下、稲):元々は、木村さんのQBハウスに行った記事を友達からおもしろいとススめられて読んだら、そこでハマってしまいフォローさせていただきました。
木:QBハウスの記事がキッカケの人、多いですね。何も考えてないし、狙ってなかったんですけどね。
今、新卒1年目ということですが、実際に美容師として働いてみてどうですか?
稲:すっごく楽しいです。学生時代に先生から「あなたは、学生生活これだけ楽しんでいて、美容師になったら絶対GAPにヘコむだろうけど辞めないでね」と言われていたので、どれだけツラいものなんだろう? と思っていたんですけど、全然そんなことなかったですね。
木:なんか、今日履歴書をもってきてくれたんですよね?
――えー!
稲:なぜ美容師になろうと思ったのか、とか聞かれたらどうしようかなと思いひっぱり出してきました。
(履歴書に添付されていた、将来の夢とそれを叶えるプロセスが書かれた資料)
木:(履歴書を見ながら)ふーん、歌や絵が得意。ヘアアレンジをやりたいと思ったということか。最近、セットが好きな子が多いですね。
稲:私、高校生の頃にブログをやっていたんですよ。その頃は、みんなTwitterよりもアメブロをやっていたんですけど、その頃からヘアアレンジが好きだったので、そういう記事を書いていて。そしたら、今その記事を見て私のことを知ってお店に来ましたっていう子がいてくれるんです!
木:なるほど、それは嬉しいですね。ミルボン フォトレボリューションの学生部門でノミネート?
稲:あと一人、サインがもらえれば賞が取れるみたいな感じでした。木村さんから「すごい!」とコメントをいただけたのが嬉しくて、実家に飾ってありますよ(笑)。
木:審査員全員分のサインがあると、評価されるんですよね。僕も審査員の一人なんですよ。
airというサインは、がんばったねっていう意味でほとんどに書いてあるので、僕が一言コメントを書いていたってことは、相当上手かったんでしょうね。多分、僕とAFLOATの宮村さんだけは、サインをほとんどに書いている。
宮村さんは、日本で知らない美容師がいないくらいのカリスマなんですけど、そんな方が全員のものにサインを書いているのを見て僕も真似しようと思ってやっています。
ミルボン フォトレボリューションは、日本で一番大きいフォトコンテストだと思うので。7000とか8000スタイルを全部見るんですよ。学生部門は2000通くらいなんですけど。
稲:全部にサインを書いていたんですか?
木:ほとんど書いていましたね。でもコメントがあったってことは、すごく才能があるんですね。素晴らしい。
そもそも、なぜROVERさんに入ったんですか?
稲:いろいろお店は見たんですが、お客さんとの距離が近いお店に行きたかったということと、自分がフロントに立っている姿とかシャンプーしている姿がぱっとイメージできたので、ここだなと思って決めました。
木:同期は何人くらい入ったんですか?
稲:私だけです。最近中途で1人女の子が入りました。
木:うちの新卒の子もがんばってくれていて、何人か残っていますけど、半分以上は辞めていきましたね。1人で入社して、上下関係のツラさはなかったですか?
稲:なかったです。最初は、先生から美容師はツラいというお話も聞いていたので、すごく不安だったんですよ。バックルームで足を踏まれたらどうしよう!? とか。でも、そうことは全然なくて、お客さんとして感じた仲良しなイメージそのままに、休日も先輩と遊びに行ったりします。
木:バックルームに入っていきなり足踏まれるとか、そういう旧体制のものは、今は何もないですよ。もちろん僕らの時代は、先輩が怖かったりもしましたけど。
全然怖くはないんですけど、その分あまり締まりがないというデメリットもあったりしますよね。美容室自体が、だんだんふわっとなってきている感じはするので。
やっぱり、もてなしっていうところのベクトルがズレる場面もあって。変に距離が近くなりすぎると、お客さんの満足度が下がったり、回転が悪くなったり、一人ひとりの施術時間が長いとかね。
お客さんはもっと早く帰りたいかもしれないし、我々の部分の感性を押し付けてしまっている部分もあるかもしれないですよね。僕は結構時間に厳しいプレイスタイルなので、ズバっとやるんですけど、かといってそれでお客さん自体が楽しいかどうかっていったら、違うかもしれないんですし。それもお店の方針の違いですよね。
木:楽しいなと思って1年を過ごしてきて、じゃあそこから発展していくものとか、考えていることとかってどうですか? ずっと楽しく過ごせればいいって感じですか?
稲:そうですね。美容が好きで美容師になったので、それを嫌いになる瞬間が怖かったんですけど、でもなんかここでならずっと好きでいられるなって思えました。なので、一番は楽しくやることですね。
木:楽しいままでずっと行くと、そのまま時が過ぎていってしまいますが、その間に何をしていきたいとか、こうなっていたいとかっていうビジョンってありますか?
稲:そうですよね。大前提として私は、「ひとりでも多くの人を感動させたい」という目標があります。そのために、アシスタントの自分が今できることはなんだろうって考えると、シャンプーを気持ちよくとかはもちろんのこと、一番お客さんにも距離が近い立場なので、「話していて元気になった」とか、「話したいです」って言ってくれる人がいて、そういうのを大切にしたいなと思っていて。
一人ひとり、何をしに美容室に来るかって違うと思うんですけど、ただ髪を切りたかっただけとか、イメチェンがしたくて来るとか、イベント前だからとか何かしらキッカケがあるじゃないですか。髪を切ったあとのストーリーがお客様にはあるので、そこまでちゃんと理解しつつも、楽しい空間をつくっていけたらいいなと思っています。
木:じゃあ髪を創り続けていくことが、私の美学みたいな感じですか?
稲:美学ですか~!? 難しいですね……。
木:分からないですけど、今のお話を聞いていると、常に目の前のことを考えているような感じがしていて。この企画で何を探っているかというと、その先の、何を考えていてその歩みを進めているのかっていうことを伺っているんですよね。今の話っていうのは“なう”じゃないですか。
なうが続いていく感じだから“うぃる”を聞いている感じですね。
稲:どうなるんですかね……。でも私、今が常に一番楽しいんですよ。だから5年後、10年
後も、今が一番楽しいなって思っているのがいいかなって。
木:オーナーとしては、使い勝手がいいタイプの人ですね。何も企んでない感あるので。
稲:ありますか?
木:企んでないから、こうしたいというビジョンが湧かないのかなとは思うので。
楽しむということはもちろん、そもそもの大前提になってくるから。まだそんなことは考えられないっていうのはあると思いますけど、多分ね、今幸せだと思っているじゃないですか。後々挫折しますよ。だから常に挫折ポイントを探しておいたほうがいいかもしれないですね。
今、既に幸せっていう価値観で満たされている気がするので、満たされているまま進むと基本的にはあんまり成長がないんですよね。
だから、びっくりするほど上手くなることもなければ、びっくりするほどお客さんが増えることもなく、そのままふわっと進んでいくのかもしれないっていう危機感を感じたかも。
それを押し付けるわけじゃないけど、満たされすぎていると多分人は頑張れないので。
今は、自分の中の頑張っているラインを超えているから、そこのハードルを上げていく作業はしたほうがいいのかもなっていうアドバイスですね。
ある意味、今っぽい。みんなうちの新卒の子に聞いても多分そういう感じ。ビジョンあるの? って聞いてもないですっていう人が多いと思う。だからその分、びっくりするくらいのカリスマになることはないなって思っちゃう。
僕らは、常に悶々としていた部分があったから。常にこうしていきたいとか、こうなったらいいなとかが結構あった世代なので、そういうのをひとつ作ってみるのはいいかもしれないですね。
稲:野望みたいな感じですか?
木:野望というか、そのモチベーションというのがずっとそのままだと……、そのままでいいですし、僕ならぜひスタッフに欲しいなと思うんですけど、後輩の指導はしてほしくない部分があるかも。
そのままの状態で教えたら、ふわっとなってしまうというか、目の前のことをやって、「よし大丈夫!」みたいな感じになっちゃうとよくないかなと思うので。
価値観を押し付けるわけじゃないですけど、アドバイスのひとつとして、ステージを上げていくビジョンはあったほうがいいかもしれないですね。良くも悪くも今らしさを感じました。
稲:私、学生時代は、周りを蹴落とすじゃないですけど結構ピリピリしていたんですよ。
小学生の頃から美容師をやりたいと思っていたので、やりたいことをやるなら一番になろう! とずっと思っていて。なので、美容学生の頃も自分の好きなことだから負けたくなくて、クラスで一番になることばっかり考えていたんですよ。
でも、そのときの自分は顔が鬼みたいだったなと思うんです。オーナーにも、入社当時は、絶対負けない! みたいなのがメラメラしていて怖かったって言われていて。昔の自分も好きだし、今もそのときの気持ちを忘れていないですけど、ROVERはそれをいい意味で解放してくれたお店なのかなって思っています。今より学生のときのほうが全然ツラいです。
木:ライバルがいると、また違ってくる部分もあるかもしれないですね。同期がいないので、何を基準にしていいのかは分からないのかもしれないですし。僕らのお店は同期入社で40人くらいいるので。でもまぁ、あんまり他者を意識はしてないのかもしれないですけどね。僕らのときは、アイツより先に進みたいとか、すごく相手を意識していましたけど。
稲:どうなんですかね。同期はいないけど、美容師一年目のなかではがんばりたいなっていうのがあります。
木:じゃあ早くスタイリストデビューして、って感じですね。
稲:ROVERはスタイリストデビューの日程が決まっているんですよ。3年間まるまるアシスタントしたらスタイリストになれるので、カウントダウン方式で練習していって、2018年のデビューの予定です。
木:へー、なるほどね。下手だったらそのままデビューするってことですね。
稲:そうですね。アシスタントと同じ仕事をやって、お客さんがつかないままっていう。だから、いい意味でも悪い意味でも危機感があります。もちろん技術を上げることが一番だと思うんですけど、だからこそ今からお客さんをつけたいです。
木:決まってるのはいいですね。僕、美容師の上手い・下手って、何が正解かっていうのは分からない時代になっているっていうのは今までの連載でも述べてきたんですけど。
そういう意味では、カウントダウン方式は非常に羨ましいし、僕向きだなって思いますね。だって、そのときまでにそういう風になっておけばいいから。いいですね。楽しみです。でも、もしかしたらお客さんが付かないかもしれないですけどね。
稲:怖いことおっしゃいますね(笑)。がんばります。
――自分を高めていくために必要なことってなんですか? 後編はこちらから
■連載アーカイブ
【木村直人 連載】『Youは何しに美容業界へ?』 第4回ホスト系美容高校生 佐地竜也 アレンジ美容高校生hina aizawa
1994年12月21日生まれ。東京都出身。日本美容専門学校を卒業後、昨年ROVERに入社。現在は、1月6日よりOPENしたROVERの2店舗目『boat by ROVER』に勤務する。Twitterでは、女性のヘアアレンジを中心としたツイートをしている。カラーモデルも募集中なので、気になる方はTwitterをチェック!
ヘアスタイルスキルにおいては語るに及ばず、常に先を走る日本のトップクリエイターの1人。「上質、洗練」をテーマにし、グラデーションカラーに代表される様に斬新な価値観で世の中にトレンドを発信し続けてきたオールラウンドプレイヤー。
情報発信者としても高いスキルを誇り、常に精度の高い情報を提供し続けている。
主宰するオンラインサロン「マルチバース」においては開始2日で400名の会員を動員。LINEスタンプディレクション、美容メディア構築など、美容師の仕事だけにとどまらない活動を通じて社会に対しての貢献を成している。
芸能人顧客多数、雑誌などでも目にしない事はない程にサロンでもサロン外でも精力的な活動を行っている。
【著書 ハラドキヘアスタイルブック(三栄書房)】はAmazonビューティーランキング第1位を獲得。
■木村さんの過去の連載はこちら
撮影/saru