若手美容師が何を考え仕事をしているのか。そんな彼らの“今”を知るために始まったこの連載もついに最終回。
最後のお相手は、人気サロン『U-REALM(ユーレルム)の代表 高木裕介さん。普段から親交のあるお二人ですが、若手美容師とこれからの美容業界に対して、何を思っているのでしょうか。売れる人の特徴やサロン成功の秘訣など気になるお話満載です!
木村さん(以下、敬称略):今日はよろしくお願いします。今、車は何に乗っているんですか?
高木さん(以下、敬称略):(笑)。今はゲレンデですよ。
木村:少し変遷を聞かせていただけませんか?
高木:中古車からはじまりました。今は、ゲレンデやハマーとかそういうものばかりですよ。
木村:フェラーリは?
高木:一回乗りました(笑)。
木村:この話、冗談で聞いているわけではなくて(笑)。車ってある種のドリームじゃないですか。高木さんは、そういう美容師が持っているような“夢”や“憧れ”を体現されてきた方だと思うので、ぜひ聞いてみたいなと思っていて。
僕は会社員で、現状で高木さんの所得には行きつけない部分もあるので、どういう感覚で過ごされていたのか気になります。
高木:独立してから5、6年は給料制だったので、雇われているときと給与は変わりませんでした。でも、結婚しているわけでも、家にこだわっているわけでもなかったので、稼いだお金は、ほぼ車につぎ込んでいましたね。
木村:僕も車ではないですが、ものすごく散財をするタイプなんですよ。毎日Uber(タクシー)に乗ってたり……。それが他の人からはよく分からない感覚と捉えられることが多くて。でも物にしても、一種当てはまる部分があるじゃないですか。
高木:僕の持論かつ、美容室に限る話なんですが、売上が500万くらいになると手取りが100万ほどになりますよね。その状態になって初めて世間の重役クラスの動きができるのかな、と。
木村:手取り100万って本当にキツいんですよねえ。
高木:そこまでいかずに、みんな“飛び級”をしようとしちゃうんですよね。手取り60、70万だと、売上は350万くらいなわけです。それぐらいで「良い家」「良い車」を手に入れるのは、なかなか難しい。でも欲しいと思う人も中にはいる。そういう人が“飛び級”をして「店を出せばいいんだ」という考えに往きつくことが多いと思うのですが、それをしてしまうと、手取り100万は絶対辿り着けない領域なんです。
木村:会社員という形でも結果を出さないと、そういうものは得られないってことですね。
高木:僕はそう思っています。 社長になっても結局、会社員のときにもらっていた給料にしかならない。
木村:物欲って別に変な意味ではなく、僕が見てきた中では、有名な方やお客様から支持を得ている方は、散財をする人が多い傾向があるんです。やっぱり稼いでいる人ほど、お金をきちんと使う作業をしてると思うんですけど。
高木:売れる人の特徴はエンゲル係数が高い人。高い飲食店で出会う人って有名だったり、世の中に支持されてる人が多い。そういう人は、例えば美味しいご飯のお店や身体のデトックス情報、芸能の話題など多岐に渡る情報に詳しいですよね。もちろん仕事にも真剣に取り組んでいるので、自分もその情報をお客さまに還元しやすい。
例えばお客さまに「最近ちょっと太っちゃって」なんて言われたら、じゃあ何を食べればいいのか、どういうファスティングドリンクがいいだとか、そういう情報を持っていると自然と支持されますよね。
木村:より上質なものを知ってるってことですよね。僕も昔はケチとまではいかないのですが、物に対してこだわりはなかったんです。でも、あるとき一念発起して、自分の使うヘアケアだけには徹底的にこだわり始めて。
今でこそ1万円のシャンプーは普通に使える感覚になりましたけど、使い出した当初は自分の中でハッと見えてきたものがあったんです。物にこだわるっていうのは、それに近い感覚だったりするんですかね。
高木:僕の周りは芸能や車関係、不動産の経営者が多くて。そういう社長たちって車や時計を買ったりする人が多かったんだよね。そういう人たちと知り合うことで、稼ぎ方や税金のことを勉強させてもらった。それで、自分も手取り100万もらえるようになってから10年くらいは全部使ってましたね、貯金もせずに。でもそのときに急激に自分が成長したような感覚はあるかな。
木村:まず手取りで100万もらうっていうのが分岐点なんですね。でも年収が上がれば上がるほど、税金も上がってくるじゃないですか。国に対してきちんと貢献しているという自覚も湧いてくるし、初めて思うんですよね「お金を稼ぐってこんなに大変なんだ」と。
高木:大変なことでいえば、500万の売上で手取り100万もらっていて、それが600万になったところで給料はちょっとしか上がらないんだよね。
木村:ですよね(笑)。僕、昔はお金持ちに対してすごく偏見を持ってたんです。それは、悪いことしないとお金って稼げないと思っていて。でも自分が真面目に仕事をして、手取り100万が見えたときに「無茶苦茶つらいな」と感じました。そのときにお金持ちへの見方が変わったかもしれない、年収1,000万超えてる人ってタダモノじゃないなって。楽して金をもらってるとか、そういうことはないんですよね。だから女の子が年収にこだわるのも分からなくはないかな。
高木:結局、美容室から払われる給料の原資は人数での歩合。20%だとしたら、100人のお客様を担当しても20人分しかもらえない。つまり、より多く稼ぐには、単純に数をこなすしかないんだよね。
――20%というのは業界水準みたいなものなのでしょうか?
木村:ナチュラルなラインかもしれないですね。
高木:実際にお店を出して思うのが、わりと経費がかかるんですよね。人件費、家賃、材料費も……。それを考えると20〜25%が適正かなと。
木村:あと社会保険などの保障の部分や、設備の減価償却もあるので、そういう考えると、大きなサロンは経費もかさみますよね。
――‟飛び級”を考える美容師さんが、サロンで上手くいかない最大の要因ってなんですか?
高木:我慢ができないのかな。
木村:早めに飛び出す人というのは、技術はあるんです。だけど、人が好きじゃない人が多い気がします。
木村:例えば、僕が組織に残っている理論として思うのは、会社員なんだけど、 僕のために働いている人間が少なからずいて飯を食わしてる感覚を持っているから、そう簡単には辞められないんです。飛び出ちゃう人は、つながりだったり、そういう感覚も部分を割り切れるタイプなんでしょうね。
逆に僕は割り切れないから、ずっとせめぎあっているんですね。パフォーマンスを発揮した上で会社が価値を認めてくれるのか、と。だから人と勝負するわけじゃなくて、会社と勝負している感覚。
高木:それはひしひしと感じるね。
木村:飛び出しちゃう人が我慢をしきれないのは、上に立っている人間の問題もあると思います。コミュニケーションの部分での問題が少なからずあるのかな。
高木: 社長や幹部が伝えられてるかどうかだよね。結局、僕も雇われの人たちと使えているお金は変わらない、むしろ雇われてるときのほうが儲かっていた(笑)。起業して7年ぐらいで雇われ時代の収入に並んで、ここ1、2年でやっと超えてきたぐらいだから。独立と言っても、そんなに簡単じゃないよとは言いたい。
木村:いきなりエグい話で盛り上がりましたが、ちょっと話を変えていきますね(笑)。高木さんのテクニックやデザインは僕らも拝見させていただいていて、いつも学びが多いなと感じているんですけれども、技術に対してはどういう考えで行っているんですか。
高木:常に流れを考えていますね。ずっとヘアメイクの仕事ばかりしていて4、5年前にサロン(現場)に戻ってきたときが、きゃりーぱみゅぱみゅさんのような方がでてきて、一気に時代がカジュアルになったときだった。
ウチは当時思いっきり赤文字系だったので「これはヤバイな」っていうの肌で感じて。なんかダサいな、と思うようになりました。だから、ある日のミーティングで「Zipper」「mina」「NYLON」を買っていって「明日からこれやって」って。
木村:いきなり転換させた?
高木:そう、いきなり(笑)。当時は赤文字、青文字に加えて紫文字系という言葉も流行ってきていて。
でもウチの店では、どんなに訓練したって赤文字から青文字にはたどり着けない。それはもう高校生のときから好きなものでファッションが決まってくるから。でも頑張って青文字を目指すことで、結果的に紫文字系に着地してたどり着くような理論で伝えて。
ちょうど青文字系が好きなスタッフがいたので、その子を先頭に立たせて、全部撮影もその子でやってもらいました。感覚があるから彼女は最初から先端(青文字の)まで行けるんですけど、ついていく人たちは中間に落ちる。それで1〜2年経ったらちょうど紫文字系になる。そういう戦略ですね。
木村:つまりデザインを考えるときには、狙ってやっていくということですよね。狙っているし、ちょっとまずいなと思ったときに柔軟に転換をしていく、ということなんですかね。
高木:大まかに考えればそうですね。あと目の前に来たものに対しては、培ってきたものしか出せないので。みんなやっていることなんだけど、ちょっと人と違う部分をつくってみるとかは、昔からやってたかな。
木村:高木さんのヘアスタイルは本当に“らしさ”があるなて思うんですよね。ちょっと尖った部分が入ってたり……他の人にできない感じがあるな、といつも感じています。
高木:でもそれにはルーツがあって。元にいたサロンからの赤文字流れの部分がありますね。やっぱりどこかしらにキレイなところがないと駄目だとか、そういう感じなんでしょうかね。
そう考えると歩み方というのは大事。僕はこういうルーツだから、カットももちろん好きですし、カラーリストの存在にこだわる発想だったりとかも理解している。そうやって歩む中で、自分のデザインというのがだんだん確立されていくのかな。これも移籍をして見えることの1つかもしれないですね。
木村:それプラス、最初の話みたいに“欲”を持つことも大事なんでしょうね。“欲を持つ=知ること”ですよね。
高木:そう、そこで知る世界によってお客様に、より多くの上質な情報が還元できるからね。
――次のスターは20~25歳の美容師の中から誕生!? デジタルネイティヴ世代から生まれる新しい美容業界とは。後編はこちらから!
■連載アーカイブ
【木村直人 連載】『Youは何しに美容業界へ?』 第4回ホスト系美容高校生 佐地竜也 アレンジ美容高校生hina aizawa
1977年8月15日生まれ。北海道出身。山野美容専門学校を卒業後、都内2店舗を経てafloatのオープニングスタッフとして参加。その後、afloat-fオープンと同時に店長に抜擢される。 2005年にはU-REALMをオープン、2013年6月には原宿にL.O.G by U-REALMをオープン。2012年には東京ブレンドの立ち上げに参加。サロンワークをはじめ、美容業界誌・ファッション誌の撮影、セミナー講師、CMのヘアメイクなどでも活躍している。
■HP
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ヘアスタイルスキルにおいては語るに及ばず、常に先を走る日本のトップクリエイターの1人。「上質、洗練」をテーマにし、グラデーションカラーに代表される様に斬新な価値観で世の中にトレンドを発信し続けてきたオールラウンドプレイヤー。
情報発信者としても高いスキルを誇り、常に精度の高い情報を提供し続けている。
主宰するオンラインサロン「マルチバース」においては開始2日で400名の会員を動員。LINEスタンプディレクション、美容メディア構築など、美容師の仕事だけにとどまらない活動を通じて社会に対しての貢献を成している。
芸能人顧客多数、雑誌などでも目にしない事はない程にサロンでもサロン外でも精力的な活動を行っている。
【著書 ハラドキヘアスタイルブック(三栄書房)】はAmazonビューティーランキング第1位を獲得。
■木村さんの過去の連載はこちら
撮影/saru