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【木村直人 連載】『Youは何しに美容業界へ?』 第2回<前編>Lily 寺村優太
【前回のおさらい】
アシスタント時代に、カリキュラムが進むにつれお客様のシャンプー指名に入れなくなることも増えた寺村さん。「全部やってあげたいのにな」という気持ちから、現在のサロンに移動。マンツーマン接客だからこそできる、LINEや動画のやりとり、こまめなケアでお客様へアフターケアをしてカット代を頂く分の付加価値を与えられるよう心掛けているとのこと。しかし、そのカット代金はなんと1万2960円!?
――カット代が1万2960円ということをお伺いしましたが、そういった価格設定が可能な理由ってあるのでしょうか?
寺村優太(以下、寺):うちのお客様は80%以上がくせ毛に特化しています。代表ともう一人のスタッフに関しては90%くらいがそうですね。僕の場合は、傷んでしまったハイダメージ毛の人かくせ毛の人っていう2極端になっていて、「どうしても解決したい」「いろいろな美容室を転々としてきたけど、結局その場限りのケアしかしてもらえなかった」っていう方ばかりなので、最後の駆け込み寺的なポジションになってきています。
そういうブランディングをしているつもりはないんですけど、自分がやってきたことが、結果的にそうなりました。Google検索でもクセ毛に関する検索で上位に出てくるようになったり、今まで書いたブログの記事数とかからも、「この人にお願いしたら、キレイな髪にしてもらえるんだな」っていう位置づけになれていることで、その価格でもお客様は多分来てくれるんだろうなと思っています。
それと、僕が重視するのって再現性なんですね。例えばカットだけの指名がきても、お断りすることは多々あって。それは、1万2960円頂くパフォーマンスのカットができないなって思った場合は、理由を説明して断るようにしています。
木村直人(以下、木):うんうん。それは僕もなんですよ。今の状態だと切るべきタイミングじゃないな、みたいなのもやっぱりあって。
僕の場合は、自分の創造幅っていうのがあって、受け入れキャパとしては、寺村さんたちよりもキャパが広めで取っているかもしれないですね。彼らは縮毛とかくせ毛とかハイダメージというところの特化したゾーンでいってるかもしれないけど、僕だったらヘアカラーとかもうちょっと幅が広め。やっぱその外にいる人っていうのは、受け入れてもMAXのパフォーマンスができない、違う人でやったほうが下手したらいいんじゃないかな? って思う瞬間はやっぱりあるんですよ。だから、僕もそういう風にお断りすることがあって、カウンセリングだけで帰ってしまう方もいますよ。だから、その考え方は非常に共感できると思いました。
じゃあそれをやっていくなかで、値段は上げていったほうがいいって感じなんですか?
寺:はい。あとマンツーマンでしか担当できないじゃないですか。1人7人フルで取ったとしても、1ヶ月で210人くらいしかできなくて、顧客を500人くらいしか受け入れられない。
その中で、価格を上げればそれだけ質の高いお客様が来てくれると思うし、そのお金を払えるってことは、それだけ仕事もできるだろうし、いい経験もしている方々からより自分の技術を分かってもらいやすいっていうのがありますね。
僕は、美容師だけでとどまりたくないと思っていますし、そういうお客様と一緒に何かをしていきたいなっていうのが将来的にあるので、正直もうちょっと価格は上げていこうと思っているんですけど……。
木:価値を上げていきたいっていう発想ですよね。非常にうらやましいなぁと思いますね。生産性っていう美容室の中でよく出てくるキーワードがあるんですけど、費用対効果みたいなものですよね。そういったところの部分で、一人で我々に匹敵するくらいの金額を売り上げちゃうわけですから、生産性で考えるとMAXですよね。
素直にすごいなと思っていて、我々が進化するためにはどうするかっていう、彼らに学んだ部分が非常にあります。
美容室をやるっていうことは、もちろんお客さんのためだけど、本当は利益のところも追いかけて、我々自体が幸せになれないと、結局お客さん自体も幸せになることはないと思うので、非常に勉強になったなっていう。僕の中でもカットの料金が2万7000円っていうのは、センセーショナルだったので。しかも年齢も若いので、本当にイノベーションですよね。僕らの場合は、キャリア積んで有名になったら価格上げていくっていう発想でしかなかったから、今の世の中ってそういう風に踏み込んでいけるんだなっていうのを実感しました。
――そういった価格設定が可能なことって、みんなが周知しているものなんですか?
木:多分メリットってものはみんな知らなくて、だから分かっちゃったらやるでしょうみたいな(笑)。
今、フリーランスで美容師をやるっていうのがある種ちょっとしたブームになりつつあるけど、働き方としての将来的な不安感とかはそれぞれ思うものがあるし、どこかのサロンにいるから大丈夫なのかと言ったらそういうわけじゃないし、美容業界っていうのがカオスですよね。
僕は、メリットも分かった上で、違った見地で価値を生み出していこうと思ってやっているし、airという組織をなんとかしたいなと思ったときに、もっともっと勉強しなきゃいけないし、イノベーションしていかないと、もう若者をつなぎとめることができないですよね。
だからもうちょっと建設的にどんどんブレストしながら変えていくっていう作業をしたいけど、サロン内にカーストができちゃっていると価値の共有も難しいですよね。そういった部分の課題っていうのもすごくあります。夢だけ見させておいたほうがいいかもしれないけど、新しい働き方としては、非常に建設的だなって思います。
寺:僕も、前のお店を辞めてからここに入るまでフリーランスでやっていたのですが、いわゆる叱ってくれる人がいなくなった環境で、自分で意識して客観視できない人は、フリーや面貸しサロンにいっても成功しないと多分思います。ただ自由に好き勝手やって、生活できる賃金稼げればいいよって人はいいかもしれないけど、自分で自分を見つめられないと結果は上がっていかないのかなって。
木:自分を戒めていかないとですよね。それはどこの場面でも一緒で、そういうところの評価がお客さんだったりするのかなって思うから、個人売り上げにこだわっている人も多いのかなって。自己顕示欲のために売り上げって思っている人もいるかもしれないど、そういうそれぞれのステージにストイックになっていかないと、とは思いますよね。
木:先ほど、美容師だけじゃないってことがしたいっておっしゃっていたと思うんですけど、夢っていうか先の部分はどうですか?
寺:実は今、シャンプーをつくっているんですよ。来年の5月くらいにリリースできる予定で進めていて、価格は結構高めですが、本当にいいものをつくりたいなって。髪に悩む沢山の方に使って頂き、悩みを改善、解決していきたいです。そして、そこからリターンできた収益で、研究したいことがあるんですよ。
木:研究?
寺:白髪を根本的になくせないかなと思っていて。最近、研究者の方と話す機会があるんですけど、美容ジャンルって研究があまり進んでないらしいんですよね。ですから、そのジャンルの悩みを解決していきたいなと思っています。
できるかできないかはやってみなきゃ分からないし、何十年もそういう美容の悩みの解決策が進歩していない理由を自分自身で確かめてみたいんです。
木:あー、もう戻りたいよね、その世代に。
うらやましいっていうのもあるし、ある種、美容師だけではとどまらないっていうのは、すごく共感を覚えるというか、僕も活動幅を広げたいなっていうのはありますよね。収益のモデルもどんどん増やしていきたい。例えば、アシスタントの給料を30万円にできるくらい収益を上げられれば、もっと人が辞めたいと思わない組織がつくれたりとかするのかなって考えたりもするし。今は追いかける幅が狭すぎるのと、自分の思考が先に行きすぎてついてこれない状況があるから。でも時は進んでいくし、あっという間に自分の思考も越されて実際新しいことを切り開いていく人もどんどんでてくるだろうし、そういった時に我々っていうのはどうできるのかな? って。このまま「ああ、そっか」って縮小していってしまうのかな? という歯がゆさはありますよね。だから今頑張っているっていうのもあって。なんか、頑張ってくださいって思います(笑)。
一同:(笑)。
木:自分のところだけじゃなくて、業界すべてのことにおいて楽しみにしています。変えてくれって思っている部分や自分が変えたいところや進んでいくところとか、たくさんありますね。
あとは、今美容師を若いうちから目指す人が多いと思うので、今から自分とうものを作り込んでおく必要がありますよね。個人ブランディングっていうチープなものじゃなくて、自分のIDとか自分のアイデンティティを普通に公開しておくことがスタンダードかもしれませんね。それに共感した人が集まっていく世の中になっていると思うので、髪型だけを提案しているスタイルだと難しいだろうなって思います。MTRL層だったら、自分は何がしたくてっていうのをしっかり明確にもった上で、アイデンティティをIT化するだけだよっていう。
寺:でも、有名になることを追いすぎて、手段を目的化しすぎないでほしいなとは思いますね。
木:もしスタートラインがそこでも行きつくところはお客様とか、仕事が好きだなってことだと思うから。あとは、価値を上げることや発信することに対して、より思考を巡らせることが求められるのかなって。例えば、寺村くんがやっているような特化した部分で攻めるとか、美容師にとどまらないでいるようなアクションとか。行動力があって挑戦していけば叶う時代がきたんだなって思います。
――ありがとうございました。
☆次回は、Bella Dolce日野達也さんのところにお伺いしています。
■連載アーカイブ
【木村直人 連載】『Youは何しに美容業界へ?』 第4回ホスト系美容高校生 佐地竜也 アレンジ美容高校生hina aizawa
1990年3月7日生まれ。群馬県出身。山野美容専門学校を卒業後、六本木のサロンにて4年間働く。その後、フリーランスサロンでの美容師を半年経験後、現在の『Lily』立ち上げメンバーとして参加。「自分史上 最高に美人に」をキャッチコピーに、女性へ美しくてまとまる髪へ導く髪質改善を提案。Twitterにて365日毎日ヘアケアに関することをつぶやき続け、数々のメディアから『美髪のプロ』『美髪アドバイザー』として特集される。
ヘアスタイルスキルにおいては語るに及ばず、常に先を走る日本のトップクリエイターの1人。「上質、洗練」をテーマにし、グラデーションカラーに代表される様に斬新な価値観で世の中にトレンドを発信し続けてきたオールラウンドプレイヤー。
情報発信者としても高いスキルを誇り、常に精度の高い情報を提供し続けている。
主宰するオンラインサロン「マルチバース」においては開始2日で400名の会員を動員。LINEスタンプディレクション、美容メディア構築など、美容師の仕事だけにとどまらない活動を通じて社会に対しての貢献を成している。
芸能人顧客多数、雑誌などでも目にしない事はない程にサロンでもサロン外でも精力的な活動を行っている。
【著書 ハラドキヘアスタイルブック(三栄書房)】はAmazonビューティーランキング第1位を獲得。
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