このコラムでは、ふと街中で見かける男子高校生に勝手にパワーを貰い、男子高校生のおかげで生かされているエミチャンカパーナが、日本の国宝である男子高校生に敬意を込め、僭越ながら国宝に登録させていただき、様々な萌えポイント=国宝登録ポイントを妄想と偏見で解説していきます。
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日曜18時。渋谷のライブハウスに彼はいる。
ライブハウスの中には派手な髪色に派手なメイクをした女の子や、髪をホストの様に盛り、先が尖った靴を履いた男の子が沢山いる。色とりどりでまさに「混沌」という言葉がぴったりである。
客層からもわかる通り、今日このライブハウスではヴィジュアル系バンドのライブがある。
そんな空間の中で、彼だけが黒髪で襟足が短い。
顔に似合わない派手なTシャツにピッタリサイズのストレートジーンズ、眼鏡をかけて、首からはマフラータオルを下げている。はっきり言って地味である。
親に無理矢理連れられてきました、とでも言わんばかりの浮きっぷりだ。(※1)
しかしライブが始まると彼は一目散にステージ近くに向かい、拳を上げる。
他の客に負けず劣らず、というか誰よりも激しく頭を振り、全身でヴィジュアル系を楽しんでいる。眼鏡が汗で曇ろうが、女性客の髪の毛が顔に当たろうが
関係ない。彼はただステージ上のバンドマンのことしか見ていない。(※2)
ライブが終わり、客の殆どが客同士で写真を撮ったり、今日のライブについての感想や分析を話している中、彼は曇った眼鏡と汗を拭き、静かに会場を後にする。
帰りの電車でまずバンドメンバーにtwitterで今日の感想のリプライを送り、ライブレポートを彼自身のtwitterに連投する。
ファンの中では精密なライブレポートをしてくれる親切な男性ということで、ちょっとした有名人である。一度も自分の顔を投稿していないが、twitterのフォロワーは3000人を越えている。
そうこうしているうちに先ほどバンドメンバーに送ったリプライが、本人からふぁぼられた。彼はこの上ない幸せで興奮し、耳が熱くなっている。
家でも学校でも地味な彼であるが、実は中学生の頃から生粋のヴィジュアル系オタクなのである。
学校の軽音学部には派手で怖い先輩もいるので所属はせず、いつも一人、自宅でギターを弾いてヴィジュアル系バンドの曲をコピーしている。(※3)
休日に好きなバンドを見に行くと、ステージ上の煌びやかなバンドマンがそんな地味な自分をいつもと違う場所へと連れて行ってくれるような感覚がして、多幸感で満たされる。家に帰ればまたいつもの日常が始まるが、この瞬間があるからつまらない学校だって、やりたくない宿題だって、母親からの小言だって、なんだって耐えられる。
友達や家族は誰も知らない彼の素敵な秘密である。(※4)
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※1.ヴィジュアル系ファン独特の痛さに染まらない強い自我。形からではなく本質を見る目を持っている。
※2.好きな物には全力投球出来る若さ。何かを本気で愛する姿は美しい。
※3.「モテたい」、「楽しそう」という感情ではなく、心からギターを愛している孤独なギタリスト。孤独を歌うバンドは彼を見習って欲しい。バンドを組める友人がいる時点で孤独ではない。
※4. 1人で趣味を楽しめるという大人の領域に早くも足を踏み入れている。
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中高生くらいの女の子がハマることが多いヴィジュアル系。ファンの多くはステージ衣装だからこそ成り立つような不思議な服や髪型を真似し、上手いから成り立つねちっとした歌い方を真似る。
しかし彼はどうだろう。ヴィジュアル系は完全に自分とは違う世界のエンタテインメントとして割り切り、楽しんでいる。彼にヴィジュアル系ファン独特の痛さは一切感じない。
それは彼が本質を見ているからだ。形から入らず、心からヴィジュアル系バンドを愛し、自分がその世界に踏み入ろうとはしない。現実世界との距離感を保っている。
若くして本質を見極める目を持ち、愛する対象を持っている彼は高校生にしてズバ抜けて人間力が出来上がっている国宝なのではないだろうか。
・大学に進学し、友達が増えてバンドを組む事もあるかもしれません。ファッションと髪型は周りの友人を絶対に真似しないでください。
・ギターの練習はこっそり続けて下さい。楽器が出来ることに惚れる女の子は多いです。きっとそのうち意図しない副産物としてのモテがやってきます。また大人になったら会社の余興等で役に立ちます。
・これからもヴィジュアル系好きは公言せず、ギャップを保ちましょう。
■アーカイブ
第1回:『暇こそ輝き!ドリンクバーで無謀なチャレンジをする系男子高校生』
第2回:『初々しさがたまらない! 初めてのバイトは本屋系男子高校生』
第3回:『好きな事に一直線! 3DSが手放せないアキバ系男子』
第4回:『無意識のモテ男! 体育会系スイーツ男子』
第5回:『とにかくモテたい! 可愛い勘違い系男子高校生』
第6回:『青春の奴隷! 熱血野球一筋系男子高校生』
第7回:『隠れモテ男! 放送委員の地味系男子高校生』
第8回:『努力はきっと報われる! 予備校通い秀才系男子高校生』
第9回:『休日の裏の顔! ヴィジュアル系大好き男子高校生』
第10回:『目的は下心!サブカル入門系男子高校生』
第11回:『夏の風物詩!部活帰り黒こげ男子高校生』
第12回:『何故君はこっちにいるのか?! ジュノン系イケメンジャニオタ男子高校生』
第13回:『日本を救う通学中の男子高校生』
第14回:『熱き友情!クイズに捧げた若き秀才高校生コンビ』
第15回:『実は育ちがいい疑惑!?ちょいヤンキー風男子高校生』
第16回:『文武両道! 大学病院に突如現れた天使』
第17回:『3年間お疲れさま!部活を引退した野球部のその後』
第18回:『紙一重!おデブな彼が見付けた活路とは』
第19回:『昼下がりのショッピングセンターに出没!傍若無人なフードファイター』
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