最終回を迎えた木村さんの連載「Youは何しに美容業界へ」。6人の若手美容師、U-REALM高木さんと話し、木村さんが感じたことは何だったのでしょうか。そしてこれからさらに加速するであろうSNS時代で一歩突き抜けるためのマインド、新たなInstagramの使い方の方向性を教えてくださいました。
木村さん(以下、敬称略):この連載を通じて、もっと探究心を持っていいし、持った探究心に対して表現をしていいんだなって思いました。
僕らの時代は僕らの時代のセオリーというものがあり、情報も何もなくて怖いから、ある道を走ることが正しいと思ってそれしかしない。そこで上下が生まれるし、敷かれたレールをいかに速く走るかというスピードをすごく考えていたんですけど、新しくレールをつくる作業って別にやっていいんだなって。昔はそれをやってはいけないものだと思っていたから、そこから外れる怖さもありました。
でも、自分自身が割とパイオニアとして、割り切った行動を始めたときにはなんてことなかったんですね。レールを速く走ることよりも、新しく開拓することのほうが圧倒的に楽しかった。それと同じように、今は若い子みんなから、ゼロスタートから物事を始められる人がどんどん出てきている。彼らが新たにつくっている道を見せてもらった連載だったな、と感じております。
――連載に出てくれたLilyの寺村さんや、AKROSの砂くんもまさにそうですよね。
木村:そうですね。みんなそれをやっていいんだよ、という話。どの業界にも通じることだと思うんですけど、割と堅めだなと感じていた美容業界でも、「新しいレールをつくって別にいいんだ」「僕はこれでいいんだ」というところが伝わってくれたら、すごく連載をやった価値があったのかなと思います。だからどんどん道をつくっていきましょう。
――その環境づくりとしてを、高木さんや木村さんたちが東京ブレンドを通して行っているんですか?
木村:東京ブレンドに関して言うと、そういった様々レールをそのまま走らせながら、途中で合体する瞬間もあったりするし離れる瞬間もある。トレインレンジャーのようなものが、5本くらいのレールを走りながら交錯するときがあって、そのときに大きな力を発揮してまた離れる。そういう感じかもしれないですね。場面場面で合体するようなカタチ。
――補い合ったり、協力し合ったりする部分はしながら、自店での活動をする。でもちゃんと業界に対しては相乗効果としてメリットが大きく広がっていくようなイメージでしょうか。
木村:そういうことですよね。でも、僕らがやろうとしてることっていうのは、もう少し幅が広いかもしれないですね。
今の子はコミュ障の子がすごく多くて、人付き合いが苦手だし、一匹狼でやれることをやっていく。例えば、砂くんみたいに「ツイキャスしかやれることがなかった」という発言をするんだけど、自分も人と関わりたい、けれど自ら関わっていく作業が苦手、という人が圧倒的に多いんですよ。でも、結局1人だと表現できることの幅が限られてしまう。
東京ブレンドに関して言うならば、高木さんと僕のタイプは違うし、それぞれのブレンドメンバーも違うし、そういった中でのせめぎ合いや駆け引きで力量がアップする瞬間があったりします。そういったところと対等に渡り合うコミュニケーション能力みたいなものが、大きく必要になってくるのではないかなというのが若い世代に対しての課題なのかもしれない。
僕みたいに、理解して向き合ってくれる人には心を開くけど、一見の人に対していきなり心を開くようなことはたぶんないと思うので。活動を見てるからこそ、ああいうふうに引き出せた話が、大きく上の人だと萎縮してしまって、対面で自信持って何かを話すことができないとか。そうじゃなくて、自分たちがやってることに誇りを持ち、自信を持ち、それでいて空気を読むというか、感覚を読みながらせめぎ合いながらという能力を育むことが、今からの時代の人には大事なのかもしれませんね。
――今、若い世代の人はみんなSNSをやっていますが、その中から一歩抜け出すにはどうしたらいいのでしょうか?
木村:人に何が求められているのかっていうことを冷静に判断できていくと、どんどん抜けていくと思います。僕はブログで、真摯に求められたことに対して書いてきたから抜けたんですよ。それがキッカケで知ってもらうことが増えた。
今で言う、YouTuberに近いような感じだと思います。ヘアセット動画も、需要があったから始めたパイオニアの人が存在すると思うんですね。それか自分がやっていたことを披露したかった人。今はすごく増えてきましたし、自分のお店というフィールドに転換したかもしれないけど、元々は需要に対して供給をした人がいたと思うんです。だから支持を得るものになった。ツイキャスももちろんそうですね。
だからこそ取っ掛かりを掴むためにある程度SNSを稼働したときに、そういった顧客になりえる人の声を反映させたりすることができるといいのではないでしょうか。意外と自分本位になってしまい、それができない人が多いように感じます。
――求められてることの分析ができるのって、ある程度継続した人じゃないと声が拾えないんじゃないかなと思います。そもそも、そこに人が来ないから、その手前で折れてしまう人が多いのかなと。
木村:あとは考え方ですよね。一発花火を上げようと思うから続かないわけで、もっと好きな使い方をして、言いたいことを言って、とにかく楽しめるような使い方さえしていれば継続はできるんですね。
僕は、Twitterを使い続けることに苦はないんですよ。人に対して言いたいことは全部さらけ出しているし、美容師ですけどエグいことも言うし、下ネタもしゃべるから楽しいわけで。みんな何かしら自分を立ててみようとか、自分に素直になれなかったりとか、本名で本質を語れなかったりとか。だからつまらないし、続かないんですよ。そうなってしまうのであれば、もっと自分に対して素直であるべきっていうのは非常に思いますね。
あと、僕が最近思っているのは、Instagramの活用の仕方。最近は、facebookから人が減っていってますが、みんなどこに行っているのかを考えたらInstagramだと思うんです。要はfacebook層、つまり年上の方々で始めてられる方が増えてきているんですよね。だからこそ、少し前までの方程式が崩れるのではないかなと。
Instagramっていうのはおしゃれな写真とか写真を見るためのツールですよね。でも、僕は読ませるInstagramにしようと思っていて。最近の投稿は、すごく長文です。
――読ませるInstagramってすごくキャッチーですね。確かに長文の投稿を最近よく見かけるようになってきているかもしれません。ブログみたいな形で使っている人が多いですよね。
木村:そうなんです。そういうことを、肌で感じる、層が変わってきていると感じる嗅覚も大事かな。僕自身は、ずっとブログを書いてきて、アナリティクスを観察しているからこそ分かることで、毎日やり続けてないと読めない嗅覚かもしれないけど。そういったことも、ひらめきや発想が呼び起こされる理由のひとつになりまうし、新しいコンテンツが生まれるキッカケにもなるのかなと。
なぜ読ませるインスタにしようと思ったというとアルゴリズムが変わってきたんですね。Instagramのアルゴリズム自体をfacebookが買収しているわけで、ある程度世襲したものになっていく。そこから“なんでこの人に好感度を持っているか”を測るとしたら投稿を見ている滞在時間になってくる。
滞在時間は積み重なっていくので、読まれる人は上位表示されるし、読まれない人はカジュアルに流されるし、というようなことになったときに、すごくコンバージョンをするんです。住み分けができるし、お客さんとして来たいって。僕はいつも「お客さんとして来たいかどうか」ということに問いを投げ続けているので、ただそういうアプローチ方法になります。
企業だとしたら、それこそ読むInstagramに転換したほうが成功しやすい気がします。写真やハッシュタグにこだわるのはもちろんなんだけど、それプラスα。もちろん、写真のクオリティが一番だし、キャッチーであることも求められるけど、その部分にしか考えが及ばない層がこれからどんどん駆逐されていきそうですね。
読ませる投稿は今後もっと増えると思っているけど、それって文章が書けないといけないじゃないですか。絶対的にどの分野でも文章が書けたほうがいいし、アウトプットすることが大切。それは訓練しないと身に付かないですけどね。Instagramのユーザーがもっと加速するという過程のなかで、自分だけ特化したものを考えるとなったら、読ませるという方向性が見えました。活かすまで行くためには難しいかもしれないけど、Instagramを使いながら自分らしくあるための方法論の一つなのではないでしょうか。
――背中を押してくれる木村さんの言葉が、新たに道を切り開いたり、手探りな行動に自信を持ったり、行動を起こすキッカケになることができれば幸いです。読んでくださった読者の方、対談を受けてくださった美容師の方々、そして毎回素敵なメッセージを届けてくださった木村さん、ありがとうございました。
■連載アーカイブ
【木村直人 連載】『Youは何しに美容業界へ?』 第4回ホスト系美容高校生 佐地竜也 アレンジ美容高校生hina aizawa
ヘアスタイルスキルにおいては語るに及ばず、常に先を走る日本のトップクリエイターの1人。「上質、洗練」をテーマにし、グラデーションカラーに代表される様に斬新な価値観で世の中にトレンドを発信し続けてきたオールラウンドプレイヤー。
情報発信者としても高いスキルを誇り、常に精度の高い情報を提供し続けている。
主宰するオンラインサロン「マルチバース」においては開始2日で400名の会員を動員。LINEスタンプディレクション、美容メディア構築など、美容師の仕事だけにとどまらない活動を通じて社会に対しての貢献を成している。
芸能人顧客多数、雑誌などでも目にしない事はない程にサロンでもサロン外でも精力的な活動を行っている。
【著書 ハラドキヘアスタイルブック(三栄書房)】はAmazonビューティーランキング第1位を獲得。
■木村さんの過去の連載はこちら
撮影/saru