「えー、ママ活で高校生逮捕だって。ヤバ。ウケる〜」
時計がわりにいつもつけている朝のニュース番組を見ながら彼女が言う。
3年生だというのに彼女は今日1限があるらしく、朝早くから起きて出かける準備をしている。講義が午後からの俺はまだベッドの中でテレビの音と彼女の声をBGMにしながらまだ半分夢うつつだ。
半同棲状態との彼女とは付き合って1年が過ぎる。彼女の実家はそう遠くない距離だが、デートした日や次の日が1限の時など、週4は俺の家に泊まっている。
「こんなんtwitterでいっぱい見るじゃんね! てかママ活してるおばさんの方が逮捕されるべきじゃない?」地上波の朝のニュースでママ活が取り上げられた異様さに、彼女はすっかり釘付けだ。解説員の言葉を一言一句漏らさず聞いて、リアクションを取っている。
「こんな世界もあるんだねえ」ベッドの中にいる俺に水を向けられる。
「んー、そうだねー」何か意見を被せたら彼女の好奇心に火をつてしまいそうで適当な相槌でその場をやり過ごす。(1)
テレビのニュースがスポーツコーナーに変わると、彼女は「ヤバ、遅れる」と言いながら慌ただしく出て行った。
彼女がドアを開けるとひんやりとした風が入り込んできて、昨日のセックスの雰囲気をかき消す様に部屋は新しい空気で満たされる。テレビ消してってくれよ…と思いながら再びベッドの中で丸くなる。ぼーっとした頭で思い出すのは昨日の彼女とのセックスではなく、3日前のあの女のことだ。
3日前、バイト先の下北沢のバーに酔っ払った1人の女がやってきた。一見だったが緊張感もなく、常連の様に振舞っていた。聞くところによると38歳でこの近くに旦那と2人暮らしをしているそうだ。いつもは旦那と2人で飲むことが多いが、今日は旦那は出張中。先ほどまで友人と飲んでいたが、なんとなく飲み足りなくて帰り道に立ち寄ったとのことだ。
旦那の収入がしっかりしてるのか、ブランド品を身につけ、普段下北沢で見る若者の小汚いファッションとは一線を画した洗練された見た目をしていた。
店での慣れた振る舞いは自信の表れからなのか、華やいだ存在は一躍店内の主役となった。
38には見えないな…。下手すりゃ親子かもしれないのか。ドリンクを作りながら俺はそんなことを考えていた。
24時を過ぎ、そろそろ上がろうとすると、その女に捕まった。
「ねえ、一緒に飲んでこうよ。大学生?」
店内とはいえ、こんなに堂々と逆ナンの様な事をされたのは初めてだった。
その場の空気を悪くするわけにもいかず、
「え、いいんですかあ? じゃあ失礼します!! 」と愛想良く振舞い、隣に座った。
カウンター内にいる店長も俺の対応に満足しているようでニヤニヤしている。(2)
正直こんな年上の人と何を話せばいいのか頭では混乱していたが、そこは向こうがリードしてくれた。大学での話、これまでの生い立ち、彼女はいるのか、またその馴れ初めまで…次々と質問は止まらない。
俺の返答に興味津々といった様子で女は深く頷いたり、驚いてみたり、コメントしたり。話を聞くだけでもここまでバリエーションがあるのかと感心するくらいコロコロと表情を変えた。
気がつくと閉店の2時近くであった。店長からの目配せを感じ、店を出る。
会計は女側だった。こんな経験も初めてだ。
友達と安酒を潰れるまで飲むわけでもなく、女の子に気を遣いながら飲ませるお酒でもなく、自分がもてなされている感覚というのは気持ちが良かった。
「おうち、近いんでしたっけ? 歩きでよければ送りますよ? タクシーも捕まらない時間ですし」親子ほど離れている年齢の女性に対し、自然とそのセリフが出た。
「じゃ、お言葉に甘えて」はにかむ顔に少しキュンとしてしまった自分がいた。腕を組んできたが、全く嫌な気はせず、むしろ気持ちは高まっていた。
10分ほど歩き、立派な新築マンションに着く。
「今日はありがとう。じゃあ、ここで」そう言うと女は慣れた手つきで首に手を回し、唇を軽く重ねて去ろうとした。
条件反射的に俺は女の腕を掴んでしまった。
「今日、1人なんですよね?」自分でも驚きのセリフだ。
全てを察している女は困り笑顔を作りながらも、潔く部屋に招き入れてくれた。
ダブルサイズベッドの気持ち良いシーツ、見たことのない間接照明、少し開いたクローゼットから覗く男物のスーツ。
罪悪感は一切無かった。悪いのは女だ。
明け方、実家より広い風呂を借りてから女の家を出た。俺を見送る女の顔は、いつの間に起きていたのか既に化粧がされて完璧だった。そういえば母親っていつも自分より早く起きてたよな… なんて野暮な事が頭に浮かんではかき消す。
女に手を振られながら家を出る姿をもしも誰かに見られたら、女はどんな言い訳をするのだろうか? 甥っ子とか、親戚の子供とかだろうか?
女のマンションを出て近くのコンビニでタバコを買おうと財布を見て驚愕した。
明らかに1万円増えている。
マンションに戻ろうとしたところで部屋番号がわからない。大体にして周囲は明くなってきた。こんな時間に住民とすれ違うわけにもいかない。
結局女の家に戻ることもできず、仕方なく1万円は貰った。(3)
なんとなくその1万円は使えないまま、3日経っても財布の中にまだ仕舞ってある。
あれは所謂ママ活だったのだろうか。いや俺は未成年じゃないから違法じゃないはずだ…。
再びテレビでママ活のニュースを取り上げ始め、なんとなく気が気じゃない。
気分を変えるために起き上がってタバコを吸いにベランダへ出るとあの女が旦那と暮らすマンションが目に入る。
スマホが鳴る。
LINEを開くと彼女からの『そういえば今日夜はー?バイト休みだよね?』というメッセージとあの女からの『また飲みに行かない?』というメッセージが並んでいた。
真っ先に女のメッセージの方を開いた俺がいた。(4)
(1) 女性からのたわいもない会話に対し、空気を読んで聞き手に徹してくれる。出来そうで出来ない男性が多く、無駄な意見や反発をしようものならくだらない喧嘩が発生する原因になる。
(2) 誘いにはきちんと応じ、しかも喜んでいる風を装ってくれることで決して女性のプライドを傷付けない優しさをもっている。将来上司に可愛がられるタイプだ。
(3) 変にテンパりすぎることなく、ウザがられない。この場合素直に受け取るのが結果スマートな対応。あたふたして家に戻るのは近所バレのリスクから絶対にNG。
(4) 欲望に忠実なあたり、チャンスはモノにできる体質。迷う前にまず行動。今ヤレる相手を見極める目を持っている。
趣味・特技:自宅でカクテル作り、猫と戯れる、写真
特徴:母親とも姉とも仲が良く、とりわけ家族関係は良好。女性家族だったからか優しく空気が読めるので女友達も多い。余計な脂肪が無いすらっとした体系でスキニーパンツがよく似合う。愛想が良くアルバイト先でも可愛がられている。
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