今日も俺は憂鬱だ。
コンビニバイトの夜勤明けは真っ先に寝たいのに、家に帰ればよく知らない女が待っている。
昨日の夜、ライブの打ち上げでいつもの如く飲み過ぎてしまった。対バンしたバンドと取り巻きの女達何人かで安居酒屋で安い酒を飲んでいた。いつも通りのもはやルーティンと化した飲み会だ。
やはり大体のことはあまり覚えていないし、思い出そうとすると脳が拒否する。気を抜くとコンビニの店内に陳列された缶チューハイを見るだけで少し胃の底からムカムカと気持ち悪さを感じてしまうほどだ。こういう日はもう酒なんて飲まないと毎回思う。
そしてこの二日酔いの副産物としてもう1つ厄介事を抱えてしまった。それが先程からの憂鬱の原因であるとある女だ。
対バン相手の追っかけをしているらしい女を酔った勢いで持ち帰ってしまった。昼過ぎに起きたら見覚えのないパッとしない女がキッチンに立っていた。この光景すらデジャヴだ。ベッドから見える女の後ろ姿は少し太く、頼もしい背中だった。(1)
気を遣って味噌汁を作ってくれたが、激しい頭痛で目覚めた日は正直水しか飲みたくない。しかも家にある食材を勝手に使われたらしい腹立たしさもある。その豆腐は麻婆豆腐用にクックドゥと一緒に買ったものなのに。
とは言え残すのも勿体ないし、その女は恍惚とした表情で味噌汁を差し出すものだから、飲まない選択肢を選ぶ方が難しく、渋々流れに任せて異常に濃いその味噌汁を飲んだ。(2)
冷蔵庫を開けたらミネラルウォーターまで使っている。味噌汁なんてどうせ煮沸するのだから水道水でも良いのに。
本来なら大学に通うべき日だったが、バンド活動をしているうちに自然と大学へは通わなくなった。
大学近くに借りた狭いのに都会相場のこの部屋も高い家賃ほどのメリットがあまりなくなってしまった。ただどこへ出るにもアクセスが良いとだけあってやたら女は泊まりに来るようになった。
話を聞くと味噌汁女もこの家から専門学校が近いらしい。この時点で非常に嫌な予感がする。
先月この部屋に泊まっていた女はバイト先が近いとか言って事あるごとに部屋に来て、関係を切るのに少し時間がかかってしまった。まさにその時の女と同じパターンな気がしてならない。
案の定、味噌汁女は一回寝ただけでもう彼女ヅラだ。「行ってきます」と家を出たかと思ったら夕方には何故かまたやって来た。今度は食材が詰まったスーパーの袋付きだ。二日酔いで1日を潰し、寝ていただけの俺は本当はラーメンが食べたかったのに。
仕方なく女が作る味が濃い料理を食べ、もう一回惰性でセックスをしてから夜勤に出かけた。(3)
あの女は絶対に夜勤から帰って来てもいるだろうし、堂々と俺のベッドで寝ているパターンだ。よくそんな図々しいことが出来たものだ。
大体にして俺は初対面の男とヤる様なブスがこの世で1番嫌いだ。付き合うわけもないし、泥酔していても付き合おうなんて言うはずがない。バンドをやってるというだけですぐ股を開く女なんてどうかしてる。俺は女とヤりたくてバンドを続けているわけじゃない。
それだというのについつい寝てしまった女達は何故俺の家に帰ってこようとするのか。勘違い依存体質もいいとこだ。いいからお前の家に帰れと言ってやりたい。味噌汁女だって学校が近いならお前の家も近いだろう。(4)
ぐるぐると考えていても仕方がない。
夜勤明けで家に戻ったらハッキリと付き合わない事を言ってやる。たぶんハッキリ言ったところで数週間は付きまとわれる気がするけど、完全スルーを決め込むしかない。
(1) バンドマン・酒好き・学校もほぼ退学・朝が弱いと言ったヒモ要素の総合商社。自然と面倒見が良い女性を引き寄せる。頼んでもないのに料理や掃除などの身の回りの世話は勝手に女性がやってくれる。
(2) 胸中色々と考えながらも表向きは女性を傷付けない空気を読んだ行動を取ってくれる。
(3) ヤる時はヤる。ヒモっぽく多くを語らない性格なのに性欲は一丁前。男らしいギャップ。
(4) 思った事をすぐに言わないので女性側からしたら掴み所ない性格に捉えられ、追いたくなってしまう。ナチュラルにを勘違いさせて惚れさせてしまう。
大学は都内の文系学部に進学。上京して新しくバンドを組み、1年の途中から早々に大学には通わなくなった。バンドの先輩の紹介でコンビニの夜勤バイトをしている。正直就職しなくても実家を頼れば金銭面は何とかなるし、就職したくなっても父親の口利きで何とでもなる。
趣味・特技:ベース、作曲、パワプロ、ウイイレ
特徴:将来に何の不安もない為、刹那的な生活が出来ている。何かと事なかれ主義で波風は立てないが、根がおぼっちゃまなので女性に対して幻想を抱いていて自業自得が引き起こした女性問題に勝手に病む。村上春樹作品の主人公に自分を重ねる。付き合うと面倒くさい性格なので長く続かない。バンドマンマジックとガツガツし過ぎない性格でモテている。
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