--1月14日、東京都某市。
地元のいつメンと白い羽織を合わせ、友達の親に借りたレクサスに乗って、スト缶片手に家から徒歩10分の市民ホールへ向かう。
いつメンとは言ったものの、こいつらとつるみ出したのはここ2年くらいの話だ。
レクサスの窓から見える地元の景色に重ねる思い出も特にない。
小学生の頃、俺は勉強しかしていない真面目な少年だった。学校の後は真っ直ぐ塾に通っていたし、クラスでも頭が良くて大人しいキャラ。いじめられていたわけではないが、中心にいたわけでもない。
勉強が得意だった代わりに運動が苦手だった。小学生のスクールカーストで上に行くには無理があった。
当然モテることもなく、地味に過ごしていた。本当は心の中ではドッヂボールでヒーローになりたかったし、リレーの選手に選ばれて女子から憧れの目で見られたかった。小学生のスクールカーストは努力ではどうにもならない分、一番残酷だと思う。
勉強は頑張ってきたおかげで、親が勧めた23区内の中高大一貫校へ進学することができた。ここでいわゆる地元の友達とは一旦疎遠になってしまった。
中学では皆小学生時代に勉強してきた人種の集まりなだけあって俺だけ地味ということはなかった。むしろ勉強に時間を割かなくなった分、自分でもわかるくらいどんどんアカ抜けていった。普通に彼女も数人出来た。
中高6年間は一応派手でモテる部類に所属することができていた。おかげで酒もある程度は覚えた。小学生の頃の俺とはまるで別人だ。(1)
エスカレーター式で大学まで進学できるから一貫校の高三は暇だった。
その頃、たまたま地元のTSUTAYAで会った小学生のクラスメイトに同窓会という名の磯丸水産飲みに誘われたのがきっかけで地元の奴らとつるみ始めた。
高校ですでに酒を覚えていた俺は、地元の派手な奴らのノリにすぐに付いて行くことができた。高三で受験勉強をせずにオールで飲み歩いている時点で俺がつるみ始めた地元の奴らがどの層なのかは想像通りだ。
でも皆小学生の時にクラスの中心でモテていた奴らだ。同等に接することが出来ているだけで俺は嬉しかった。
その地元グループには時折女も参加することがあった。
風の噂で中学でヤンキーになっていたらしい同級生、地元でキャバ嬢をしている女、ヤクザの彼氏がいるらしい女…皆派手なギャルで喫煙者だったが、いつも高校で接しているクラスメイトとは全く違うタイプの女ばかりで新鮮だった。
しかも地元の女は皆すぐヤらせてくれた。高校生活では彼女以外とヤッたことなどなかったが、地元では友達というだけでいつでもどこでもすぐヤれた。
もちろん地元のいつメンももれなくほぼ全員ヤッているらしいが、そこは気にしない文化のようだった。
昼は真面目な都内の一貫校で、夜は地元で過ごすうちにどんどん自分の中で地元への比重が高まっていった。高校を卒業するころにはピアスも開けて髪もツーブロになっていた。
大学に進学してからもサークルには所属せず、地元を優先させた。
地元のいつメンで大学に行っているのは俺だけだ。専門に通っている奴もいれば、すでに鳶として就職している奴もいる。就職して金を稼いでいる奴と飲みに行くのは楽しかった。
そして今日、気が付けば地元のいつメンとお揃いの袴を履いている。
中学時代の思い出は話たまについていけないこともあるが、俺はここが心地よかった。会場に到着した頃にはすでに酔っていたが、この後は居酒屋で昼飲みをする予定だ。
成人式とあって、当たり前にいつメン意外の知らない派手な奴もいる。俺以外はそいつらとも友達のようで、俺の知らない話題で盛り上がっている。仕方ない。俺は20年間地元に住んでいても、新入りみたいなもんだ。
そろそろ式が始まる時間になり、俺は室内に入ろうとする。すると口々にこう言う。
「まじかよ! お前真面目かよ!」
「もうそろそろ帰ろーぜー」
どうせふかしてるだけなのにわざわざ直前で喫煙所に行こうとする奴もいる。
「まあせっかくだしな!」
俺はそう言うが本当は知らないヤンキーとずっと外にいても間が持たないからだ。暇つぶしに市長の話を聞いている方がマシだ。
「えー竜也が出るなら私も出よっかなー!」
派手に髪の毛を盛ったギャルが1人俺に着いてきた。髪を固めすぎていて毛先のパリパリ感が男の俺にでもわかる。
この女は面影が全くないが、小学生時代同じクラスで学級委員をしていた女だ。
当時俺は少し好きだったが、カーストの違いからほぼ話したことがなかった。
その女が俺に着いてくるという。
『ヤレる』頭に浮かぶのはその3文字だ。
地元の男女間には付き合うという選択肢はなく、ヤるかヤらないかの基準しかない。
おそらく俺の知らない中高時代に皆すでに付き合っては別れたりを繰り返していたのだろう。
退屈な式の最中、隣に座る元学級委員の女はしきりに誰かにLINEをしたり、鏡で前髪の微調整をしたりしていた。時折どうでもいいことを話しかけてくる。おかげで式の退屈さは少しはマシになった。
二人で外に出るといつメンの姿とレクサスは無かった。スマホを見てみると「魚民集合な!」とだけLINEが入っていた。
「ウケるー!みんないないじゃん!」
女が手を叩いて笑う。
「しょうがねーな、すぐそこだし歩くかー」
俺が言うと、女は照れた顔で不思議な提案をしてきた。
「この格好で飲みたくないから。一旦着替えるわ。ちょっと着いてきてくんない?」
一応疑問形で聞いてきた癖に、俺に断る隙もなく歩き出す。
すぐ近くの女の家に到着すると、御両親が会釈をしてくれた。玄関を見ると大家族らしい。突然の男の訪問に驚かないあたり、普段からこういったことに慣れているのだろう。大人しくこの家の常識に従う。(2)
「ママ、この子地元の友達。ちょっとお兄ちゃんの部屋で待っててもらうね」
女は母親にそう告げたが、2階にあがるとお兄ちゃんの部屋ではなく、おそらく女の部屋へ手を引っ張られた。
「大丈夫、大丈夫。」
口パクで俺にそう伝える。
女の部屋にはキャバ嬢の様な派手なドレスがかけてあった。魚民に行くのにも衣装替えをしなければならないなんて大変だな、と考えているとおもむろに女が振袖を脱ぎ出した。
あまりに自然に目の前で脱ぎ出すものだから目のやり場に困ってしまい、思わずスマホに目を落とす。既読済みのLINEを開いたり、Twitterのタイムラインを何度も更新していると、女が近づいて言う。
「スマホばっか見てんじゃねーよ」
そう言う女は下着姿だ。ヤンキーは1階に親がいても普通にヤるものなのだろうか? よくわからないが、こうなればもうヤるしかない。(3)
さっと済ませてドレスに着替えた女と魚民に向かう。女は腕を組んできたが、俺は特に気持ちは揺らがない。
途中、小学校の通学路を歩くと、10歳ぐらいの少年が塾のカバンを背負って歩いていた。人生、何があるかわからない。少年よ、大志を抱け。心の中でつぶやいた。(4)
きっと横にいる女はこの言葉すら知らないだろう。
(1) 普通にしていれば普通にモテるレベルのルックスとキャラ。別に本来陰キャタイプというわけではない。本人が自覚しているように、小学生の時のモテ属性が自分にはなかっただけ。
(2) 郷に入っては郷に従えということを心得ている。空気を読んで行動するため、ヤンキーともすぐ仲が良くなれたし、遅いヤンキーデビューでも調子乗ったことをせずに女にも好かれている。
(3) 据え膳食わぬは男の恥。自分の常識ではあり得ない行動でも柔軟に受け入れる。割と来るもの拒まずな受け身系ヤリチン。
(4) 要所要所で頭がいい。しかし相手のレベルに合わせた態度を常にとるため、女がわからないだろうなと思ったことを伝えてマウントを取ったりはしない。
名前:竜也(たつや)
経歴:千葉県出身。小学生の時は勉強ばかりしていた。中学ではバスケ部に所属。理由は小学生の時に放課後自分は塾に通う中、皆がミニバスをしていて羨ましかったから。運動神経はよくないが、部員が少ないことが助けになり6年間レギュラーとして活躍した。元々は地元の友達が少なかったが、部活も引退して暇になった高3から急にヤンキーの地元の友達増えだした。大学へは真面目に通い、1年時はフル単。成人式の日もオールで飲むが、明日のテストへはきちんと出席する予定。
趣味・特技:フラッシュ暗算
特徴:物事を器用にこなせて空気が読めるタイプ。周りに流されやすい性格をしているが、根が真面目なのでヤンキーとつるんでいても犯罪行為には手を染めない。地味だった小学生時代に強いコンプレックスを持っている。一人っ子で親とは意外に仲が良い。
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