六本木、金曜日22時。街中が色気に包まれる時間帯、高級個室カラオケの中に俺は今日もいる。今週3回目の合コンだ。
今週は月曜から大学の同級生と、水曜は会社の同僚と、そして今日は会社の先輩との合コン。働いている広告代理店の名前を出せば合コンのセッティングなんて容易だ。率先して幹事だって引き受ける。
大学時代から合コンには慣れていた。
酒も強いし、コールも知っている。社会人デビュー組とはわけが違う。気が利く方だし、この場を盛り上げる為の演者に徹することだってできる。
今も目の前で酔っ払った先輩が隣の今日一番可愛い女の子にもたれかかり、ダル絡みをしている。女の子は迷惑そうな顔をしているのに気がついているのは俺だけだ。
すかさず先輩の十八番の曲を入れて先輩を席から立たせて歌わせる。勿論誰よりも先輩の熱唱を盛り上げるから先輩も悪い気はしない。女の子はさりげなくトイレに行かせて自然に席替えをした。(1)
この場の治安を保っているのはこの俺だ。誰よりも空気が読める。
いま先輩から離した女の子は確実に俺に気があると思う。いや、気があってもなくてもこの調子だと簡単にヤレる。実際あの子が今日の女性陣の中では一番の美人であることは確かだし、俺も今日はあの子とヤるのだと思う。
ここまで酔っていれば先輩もどの女の子にどんなアプローチをしていたかなんて月曜日には覚えていないだろう。俺がその女の子とヤッたところで笑い話で済む。
終電を気にする時間になり、伝票が運ばれてくる。お会計も俺が済ませる。その方がスマートだから。男同士の割り勘なんていま女の子の前で見せても空気が変わるだけだ。(2)
店を出れば終電で帰ると言いだす女の子もいれば、どうしようかと男性陣の様子を伺っている女の子、次の店をどうするかと言っている先輩、酩酊状態の先輩、そして俺の様子を伺うさっきのあの子。それぞれがバラバラな方向を向いている。
一次会をうまく仕切った俺にはもうここまでくればこの場を仕切る筋合いなどはない。あとはみんな勝手にやってくれというのが本音だ。
…しかしその空気を明らさまに出すのも場が白けてしまうので、酩酊状態の先輩を気遣うふりをして肩を抱える。
「先輩こんな感じだからあとは各自解散でよろしくです! 飲んでるチームいたら後で合流するんで連絡くださいね!」と被害者風な困り笑顔でタクシーを捕まえる。(3)
先輩をタクシーに乗せ、行き先を伝え、俺は乗らない。タクシーを見送り、電子タバコを一服。
二次会チームの店はそろそろ決まった頃だろうか? LINEを開く。連絡するのは二次会へ向かったメンバー…
ではなく、先ほどの今日一番可愛かった女の子だ。
「今日はありがとう。今もまだ飲んでる? よかったら二人で飲み直さない?」(4)
あの子も俺からのLINEを待っていたはずだ。
終電を逃したのも俺と飲みたかったからだろう。目当てのいない終電後の二次会で飲んでいるなんて気の毒だ。
案の定即レスで今いる店を出てくるとのLINEが帰ってきた。
二次会チームには申し訳ないが、これくらいの旨味がないと幹事はやってられない。
それにしても今日の合コンも全てが俺の手の内で、女の子も簡単に手に入ってしまった。どこでもうまく生きられる俺は女の子とヤることだって容易いけれど、出会ってはヤり、出会ってはヤリの生活はいつまで続くのだろうか。
俺もそのうちあの酩酊した先輩のようになるのだろうか…。
そう思うとゾッとするが、この問題はシラフの時に考えよう。
今はまだ女の子とヤリまくる生活に酔っていたい。
(1)先輩の顔も立てつつ女性も救う。空気を変えずに全員が気持ちよくいい流れに持っていくムードメーカー。女性からみたらヒーローでしかない。
(2)男性側の全奢りであっても、割り勘の相談をしている様を見るのは女性としては気まずいもの。また飲み会の場での割り勘は払った払ってない問題が発生し危険。回収は別日にしてスマートに会計は済ますが吉。
(3)あくまで二次会には行きたい意思を見せるのが場を盛り下げないためのマナー。
(4)結局みんなで飲むのか…と少し落胆させておいてこっそり二人で抜け出す連絡をするサプライズ感で喜びは2倍に。まんまと抜け出したくなる。
名前:将也
経歴:元ヤンで保育士の母と、メーカー勤務の父の間に生まれた一人っ子。東京の足立区出身で地元は勿論荒れているが、中学から私立の男子校に通っていた為、その片鱗は皆無。その為地元の友人はいない。大学は現役でKO大学に入学。飲みサーで合コンを繰り返し、盛り上げ方に関しては手馴れている。大手広告代理店に入社し、現在も合コン三昧の毎日を送る。
趣味・特技:フットサル、コール
特徴:足立区生まれではあるが育ちが良く、両親にとっては自慢の息子。勉強も就活も正攻法できちんと努力をしてきた真面目な性格をしている。男子校で養われた上下関係と、大学での飲みの場数より空気を読む力に長けている。女の子とヤることは容易いが、最近はふと「合コンに来るような女なんて…」と我に帰ることも多く、焦りが見えてきた26歳。
■前回の東京ヤリチン白書!
■ライタープロフィール